ドローン事故の模擬裁判−日本機械学会、普及前に課題整理

活用の幅が日々広がっていく飛行ロボット(ドローン)。それに伴い、事故の発生も懸念される。こうした事態が頻発する前に、日本機械学会の法工学専門会議では、ドローン事故の模擬裁判を開き、様々な観点から議論を重ねた。物流会社のドローンに趣味で空撮していたドローンが接触し、近くの小学校の校庭に落下。住民が物流会社の飛行禁止を求めて裁判所に訴えた設定だ。社会実験の結果はいかに―。(小寺貴之)

【幅広い市場存在】

ドローンは空撮や農薬散布、物流など幅広い市場が存在する。用途によって装備も運用ルールも変わる。自律飛行型のドローンが人の住む地域の近くを飛ぶようになる日も近い。

ただ、安全性認証や免許、運航管理システムなどの制度については検討途中だ。模擬裁判を設計した福田・近藤法律事務所(東京都中央区)の近藤惠嗣(けいじ)弁護士(工学博士)は、「現実に起こり得る事案で裁判を争う。論戦を通して課題が整理され、課題の検証方法やそれを支える法のあり方が見えてくる」と説明する。

【リスク許容範囲】

模擬裁判では住民の差し止め請求は棄却された。物流ドローンの安全対策は国土交通省の審査を経て承認されたもので、衝突した空撮ドローンも操縦者が目視で操縦しており違法ではなかった。

ドローン同士の衝突事故が繰り返され、墜落して人を巻き込むリスクは社会通念上、無視できる程度に小さいと判断した結果だ。

裁判官役を務めたTH弁護士法人(東京都新宿区)の高橋淳弁護士は、「航空法の立法過程でリスクを無視できるよう検証されている。立法府の良識を信じる」と説明する。

ただこの先、ドローンの数が増えて環境が変わり、事故が増えれば差し止め請求が認められる可能性も示した。争点だった物流用ドローンの安全対策は自動回避機能とプロペラガードに焦点があたった。

プロペラガードはプロペラと人間の接触を防ぐ効果はあるものの、抵抗を増やすため風にあおられて墜落するリスクを高める。自由落下で墜落すれば人間を傷つけるリスクは下がらない。

残った機能で不時着に近い形で降りられればガードは有効だが、不時着途中で風にあおられるリスクもある。ゆっくりと降りられるなら人間がドローンを避ける余裕が生まれる。単純に「ガードがないから危険」とはならなかった。

【法の介在必要】

自動回避機能は、時速40キロメートルで飛行する場合、障害物を3秒以内に回避するのに30メートル先の障害物を検知しなければならない。飛行データの保存など、検証可能性を担保し、法律家がその情報にアクセスできる環境が必要とされた。

空撮ドローンの瑕疵(かし)については高度100メートルを飛ぶドローンは、操縦者からは点にしか見えないくらい小さい。三次元的な動きを把握しづらく、器用に避けることは難しい。

原告側で証言した中村城治技術士は「趣味用の機体は操縦ミスだと立証できない」という。近藤弁護士は「安全承認など規制のない趣味用ドローンと衝突するリスクを考え、業務用ドローンに無限大の安全対策を求めれば、それは禁止することと等しい」と指摘する。

模擬裁判では差し止め請求が棄却され、ドローン関係者は胸をなで下ろした形だ。今回は死者の出ない事案を扱ったが、血が流れれば社会の受け止めは変わり得る。模擬裁判を通して、争点や検証の仕方を整えることで世論の急変に備えられるかもしれない。

引用:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00442282